
タイトルも著者もうろ覚えだが、たしか、マダガスカルの助産院で働く日本人シスターが主人公の小説を、夏休みの宿題で読書感想文の題材にした記憶がある。中学生の頃だったと思う。日本では考えられないような貧困の中で、修道院で一緒に働くマダガスカル人の同僚たちが初めて板チョコを食べて感動し、その小さな小さな板チョコの欠片を家で待つ幼い弟妹たちに食べさせたくて、何かに包んでそっと持って帰ろうとする場面があった。大切に大切に。20年以上前のことだから、まだ今のように飽食の時代と騒がれてはいなかったけれど、経済のことなどわからない片田舎の中学生だった私でも、自分のお小遣いで好きなお菓子を買える暮らしをしていたので、溶けて消えてしまいそうなチョコレートの欠片をまるで宝物のように扱う貧しさに少なからず同情した。それと同時に、まだ自分でお金を稼ぐことすらできない子どものくせに、自分以外の誰かを憐れむなんて、傲慢なのではないかと芽生えた同情心を恥じるような気持ちにもなった。そして、手のひらにほんの少しの小さな宝物を、弟や妹たちに分けてやりたい、家族に食べさせてやりたいと自然に思えるその温かい気持ちに驚きもした。もしも自分がその立場だったら、弟のためにこっそりと持ち帰り、そのチョコを分けてやっただろうか・・・と考えた。私なら、独り占めしたかもしれない。
あぁ、なんて豊かなのだろう・・・この人たちは、本当に貧しいのだろうか、そう思った。
その小説の中のチョコレートが登場するシーンと人々の様子があまりにも印象的で、私の中でチョコレートは小さく割って、口の中でゆっくり溶かして、大切に大切に時間をかけて味わうものに変わった。
ある年の秋頃、当時、働いていたスタッフさんから「チョコレートに合うブレンドを作ってくださいよ」と軽い感じでオーダーされた。「バレンタインに販売したいので」とのこと。作るよ、作るけどさ・・・簡単に言うなよ?と心の中で、思ったりなんかして・・・笑
まず、チョコそのものに、ものすごくたくさんの種類があるので「どんなチョコに合わせたいの?どんな人に飲んで欲しいの?」と聞くと、「イメージはあります!!今年のテーマは〝いつもお世話になっているお姉さん的な職場の憧れの先輩〟に日頃の感謝を込めて渡す、ちょっと贅沢で洗練された高級チョコ!!そして、それに合わせる紅茶がいいです!!」とのことだった。高級チョコか・・・「じゃあ、ハイカカオ系の苦味が強くて、ちょっと酸味もある感じやつね」と言うと、「そうそう!!そんな感じです。」と言うので、早速、会社の近くにある百貨店のお菓子売り場で、チョコレートを片っ端から買ってきた。〝高級チョコ〟とは言われたけれど、その後、コンビニにも寄り、リーズナブルなミルクチョコレートやナッツやキャラメルが混ざったようなアメリカンな味のするチョコまで、たくさんのチョコを用意した。チョコレートそのものに種類があるだけでなく、ナッツやドライフルーツ、ホワイトチョコやいちごやミント、いろんなものが混ぜられるし、いろんな味わいのチョコが出ている。もちろん、板チョコも買った。
自分の中で「こんな感じのブレンドにしよう」というイメージはすぐに浮かんだし、あまりにもたくさんあるチョコレートの中で、なにかしらのチョコに絞らなくてもいけないことはわかっていた。しかも、ちゃんと〝ハイカカオの高級チョコ〟と指定もされているじゃないか・・・でも、私にとって、チョコはもっと身近で馴染みがあって、懐かしくて・・・それでいて、いつでも手に入るこのスーパーマーケットやコンビニで買える板チョコが、海の向こうの遠い国に行けば、見たことも食べたこともない人生観が変わるような感動のスイーツになったりもするのだから。
チョコレートに合う紅茶を作って欲しいと依頼された時、「どんなチョコ?誰に贈るの?」とスタッフさんに聞いた私だったが、自分で商品作りをし始めたばかりの頃は「ターゲットを絞れ」と言われるのが、実はすごく苦手だった。〝ターゲットを絞る〟ことは、ビジネスをする上では、必要不可欠ですごく大切なことなのだと頭ではわかっているのだが、私はティーセミナーをする時、お客様がたった一人のプライベートレッスンでも、大きな会場を貸し切っての何十人もの前に立つ講演会のような形でも、長年ずっと同じ内容を伝えてきたし、百貨店のプロモーションでも、目の前にいるお客様が男性だろうと女性だろうと年配だろうとお子さんだろうと、私はいつも同じ熱量で紅茶を語った。なんなら、居酒屋でたまたま隣の席に座ったサラリーマンの方々、ショップで立ち話をすることになったご婦人、目が合って声を掛けたり、掛けられたり、そういう人にも紅茶の素晴らしさと自分の夢を語ってきた。誰が来ても、何人いても、同じ対応なのだから、正直、ターゲットなんてあってないようなものだった。たまたま私の目の前に現れた人が、〝その日のお客様〟であり、〝私のターゲット〟になった。だから、このチョコのためのブレンドを本当に〝高級チョコ〟だけに〝職場の憧れの先輩のため〟だけに、絞ってしまっていいのだろうかと迷いが出た。もうそれならばいっそ「アーモンド入りチョコ用」とか「ホワイトチョコ用」とか、それぞれ分けてブレンドしたい・・・と思ったけれど、「パンのための紅茶」を作った時と同様に、もちろん却下された・・・笑(パンを愛する人のための紅茶を作った時の物語も読んでみてね?笑)
そういうわけで、チョコを絞りきれない私は、1日で50個以上のチョコをペアリングすることになった。途中、冗談じゃなく・・・鼻血が出るかと思った。自分でも難儀な性格だと思う・・・。でも、そのおかげで、素晴らしいチョコレートブレンドができあがった。
ちょうどその頃、厳選された材料でチョコレートやアイスクリームを作っている方から、チョコの原料カカオには300種とか400種類の香気成分があると教えていただいたのだが、実は、私もティーセミナーでお客様に「お茶には約200種類以上の香気成分があるんですよ」とお教えする。厳密に言うとそれは緑茶のことで、紅茶には600種類以上もの香気成分があるらしい・・・リナロールやゲラニオールが有名だけど(あっ、いや、別に有名じゃないかな?多分、マニアック過ぎるので、細かい話はまた今度!!笑)とにかくチョコレートにも紅茶にもそれくらいたくさんの香りがあって、それぞれの香気成分や味わいが重なり合って相乗効果を生む〝マリアージュ〟を探しながらテイスティングをして、ひとつのブレンドを作っていく。
立ち上がりはリッチなナッツ感(少し香ばしさを含む甘さ)。段々と甘さに深みが増していき、重厚感ある強い渋味もあって、温度が下がるとフルーティーな香りも際立ってきて、最高においしい。しっかりとしたその強い渋味がほんのり苦く感じたりもするけれど、それがまたチョコレートに合う!!!!まさに、チョコレートのための紅茶!!
さぁ、ここからやっと、お客様に向けてのご説明に入ります。(お待たせしました!!笑)
贅沢な高級チョコの酸味にも合わせて、フルーティーに仕上げる予定でしたが、いい感じにアーモンドのようなロースト感やフラワリーな甘い香りも出せたので、普段、食べるミルクチョコにも合います。チョコを使った焼き菓子ならフィナンシェやマドレーヌ、パウンドケーキのようなしっとり系が遠藤的にはおすすめです(やっぱり天才かもしれない!笑)
ちなみに「チョコレートティー」といった名前がついた紅茶の多くは、茶葉と一緒にカカオが入っていたり、チョコレートのフレーバーが着香されていたりするのだけれど、このチョコを愛する人のための紅茶は、「チョコを食べながら飲む紅茶」なので、フレーバーはつけていません。紅茶そのものに含まれる香気成分たちだけで、チョコを連想できるようにブレンドしました。紅茶で温まった口の中で、チョコが溶けていって、酸味や渋味、甘さが混ざり合って完成します。フレーバーをつけなくても、紅茶には、まだ解明しきれていないくらい多くの種類の香気成分が含まれているのだから、それらを探しながら、味わってほしいのです。だから、まずこの紅茶を購入する方は、自分のお気に入りのチョコや一度、食べてみたかったおいしいと噂のチョコ、プレゼントでいただいたチョコなど、とにかく「チョコを用意する」ところからがスタートです。
紅茶初心者の方はレシピ通りに淹れてもらうのがいいと思うのですが、普段からリーフの紅茶を飲み慣れてる方は是非とも蒸らし時間をやや長め(もしくは湯量をやや少なめ)にして、濃い目に抽出するのがお勧めです。
チョコには、コーヒーだと思っているそこのあなたにも、いやいや、チョコにはウィスキーだろうと言いそうなあの人にも、是非、この紅茶を飲んでみてほしい。







